遺贈と贈与の違いとは?メリット・デメリットについて解説

遺贈と贈与の違い

遺言によって与える財産や割合を指定する「遺贈」は、遺言の内容を秘密にできる・受遺者の判断で放棄も可能というメリットがあります。一方、贈与者と受贈者が生前に契約を交わし、贈与者の死亡によって財産を与える「死因贈与」は、遺言書のように厳格なルールがない、特定の相手に確実に財産を渡せるところが利点です。

亡くなった人の意思を反映できる「遺贈」と「死因贈与」

遺贈と死因贈与は、遺言や契約によって法定相続人以外に財産を与えることが可能で、渡したい財産や割合を指定できます。どちらも財産を与える人の死亡によって効力が発生します。

「遺贈」で財産や割合を指定して渡す

遺贈は、遺言によって特定の人に財産を与えます。財産を渡す人を「遺贈者」、財産を受け取る人を「受遺者」と呼びます。内縁の夫・妻や子どもの妻(嫁)、再婚の連れ子など相続権がない親族も対象としています。

与える割合を指定する「包括遺贈」

「全財産の3分の1を内縁の妻に与える」というように、与える財産の割合と相手を指定する遺贈を「包括遺贈」と言います。遺贈者が遺言を書いた時点から実際に亡くなるまでに財産構成が変わっても、常に一定の割合を受遺者に与えることが可能です。その反面、受遺者は遺贈者が残した借金やローンなどマイナスの財産も受け取る可能性があります。

与える財産を指定する「特定遺贈」

「○○銀行の預金を長男の妻(嫁)に遺贈する」というように、与える財産と相手を指定する遺贈を「特定遺贈」と言います。受遺者は、遺贈者が指定していない限りマイナスの財産を受け取らずに済みます。一方、財産構成の変化には弱く、遺言作成後に財産を処分した際は遺言の見直しが必要になるでしょう。

「死因贈与」で生前に契約して渡す

死因贈与は、「私が死んだら長男にこの家を与えます」というように、死亡を条件として生前に交わした贈与契約です。財産を与える側を贈与者、受け取る側を受贈者と呼びます。なお「贈与」という名前がついていますが相続税がかかります。

遺贈と死因贈与の違い

遺贈は遺贈者が一方的に行う意思表示(単独行為)なので、受遺者は財産を受け取らないという選択も可能です。遺贈者の意に反して遺贈が成立しないケースもあるのです。これに対し、死因贈与は贈与者と受贈者の合意で成立する契約です。贈与者の死後、受贈者の意思だけで財産の受け取りを放棄することはできません。このほか、遺贈は遺書が必要ですが死因贈与では不要です。

負担付死因贈与とは

負担付死因贈与とは、「生存中に○○してくれたら財産を与える」というように、受贈者に対する義務や負担を条件加えた死因贈与のことです。贈与者が提示する条件は、最期まで身の回りの世話をすることや、死ぬまで同居することなどが挙げられます。

遺贈のメリット・デメリット

遺贈も死因贈与も、亡くなった後の財産の処分に本人の意思を反映できることが一番の特徴です。しかし、それぞれメリット・デメリットがあり、利用しやすさや何をリスクと考えるかは人によって異なります。特徴を知って自分に最適な方法を検討してみてください。

遺贈のメリット

まず遺贈のメリットは、適切な遺言の種類を選べば遺贈者は死ぬまで遺言の内容を誰にも知られずに済むことです。また、相続の場合と同様に、遺贈を放棄するという選択も可能です。

遺贈者は死ぬまで内容を秘密にできる

遺贈は遺贈者の一方的な意思表示なので、遺言作成時に受遺者の了承を得る必要はありません。つまり遺言を誰かに読まれない限り、遺贈者は死ぬまで内容を秘密にできるのです。公正証書遺言の場合は、手続きの過程で2人以上の証人や公証人に内容を知られますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言なら自分一人で書き上げることが可能です。

受遺者は放棄が可能

包括遺贈も特定遺贈も、受遺者は遺贈を放棄することが可能です。「相続税が払えそうにない」「包括遺贈で債務を負いたくない」といったケースに役立ちます。ただし、特定遺贈はいつでも放棄できるのに対し、包括遺贈の放棄は「効力が生じたことを知った時点から3か月」という期限があるので注意が必要です。

遺贈のデメリット

遺贈のデメリットは、遺言に些細なミスがあるだけで無効となる恐れがあることです。また、特定遺贈の場合は財産構成の変化に弱いため、遺言を定期的に見直さなければ遺贈者にとって不本意な結果を招きかねません。

遺言は些細なミスで無効となる恐れがある

遺贈には遺言が欠かせません。遺言のなかでも自筆証書遺言は特別な費用をかけずに一人で作成できるため、誰でも取り組みやすいでしょう。しかし作成年月日の明記や署名押印など、所定のルールに沿って作らなければ無効となります。些細なミス1つでも、せっかく作った遺言が無駄になってしまう恐れがあるのです。一人で作成するのが不安な方は、弁護士などの専門家に相談するか、公文書のプロである公証人に文面作りを任せる公正証書遺言を利用するのがおすすめです。

包括遺贈・特定遺贈それぞれのデメリット

包括遺贈のデメリットは、受遺者が借金やローンも受け取る可能性があることですが、これに対しては放棄という手段が残されています。一方、特定遺贈には財産構成の変化に弱いというデメリットがあります。例えば遺贈者が「別荘を○○さんに遺贈する」と遺言に書いた後、何らかの事情で別荘を手放してしまえば、本当は財産を与えたかった相手に何も残してあげられません。特定遺贈の場合は特に遺言の定期的に見直したほうが良いでしょう。

死因贈与のメリット・デメリット

死因贈与は「契約」の形をとりますが、贈与者が亡くなった時から効力を発揮するので、原則として遺贈の規定が準用されています。しかし成立の方法や撤回の可否で異なる点もあります。

死因贈与のメリット

死因贈与のメリットは、遺贈とは違って遺言を書かなくても良いことです。また、遺贈者にとっては特定の相手に必ず受け取ってもらいたい財産がある場合に便利です。

口約束でも成立する

死因贈与の契約にこれといった形式はありません。極論ですが、契約は口約束でも成立するのです。この点は遺言が必要な遺贈とは大きく異なります。とはいえ死因贈与の場合も契約書を作成しておくほうがおすすめです。書面に残っていれば受贈者が困ったり、相続人ともめるといったトラブルを回避できます。

確実に財産を渡せる

死因贈与は、遺贈と違って「放棄」がありません。お互いの合意の上に契約が成立しているので、贈与者の死後に受贈者は必ず財産を受け取ることになります。このため贈与者にとって、指定した相手に確実に財産を渡せるというメリットがあるのです。

死因贈与のデメリット

死因贈与のデメリットは、遺贈の遺言とは違って契約内容を撤回できない場合があることです。また、不動産を与えたい場合は税金面で不利になるので、事前に他の方法と比較検討したほうがいいでしょう。

負担付死因贈与は撤回できない場合がある

通常の死因贈与は、贈与者が亡くなる前(贈与の効力が発生する前)であれば贈与者のみの意思で契約内容を撤回することが可能です。この点は遺贈で遺言を書き直しても良い点と同じです。しかし身の回りの世話などの義務・負担を条件にする負担付死因贈与では、受贈者がすでに義務・負担を履行していれば、特段の事情がない限り撤回はできません。

不動産を与える際、税金面で不利になる

死因贈与は、遺贈と比べて不動産を与える際の税率が高く設定されています。登録免許税とは不動産を登録する際にかかる税金で、遺贈の場合は、相続人は0.4%、相続人以外は2%ですが、死因贈与の場合は誰でも2%がかかります。また不動産取得税も、死因贈与の場合は誰でも4%がかかります。

相続は法定相続人のみが対象ですが、遺贈や死因贈与を活用すれば第三者にも財産を残せます。一人ひとりに最適な方法が知りたい方は、ぜひ遺産相続に強い弁護士に相談してみてください。

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