身内が誰もいなくて相続人がいない場合、財産はどこへ行く?

孤独

身内がおらず相続人がいない場合は、家庭裁判所が相続財産管理人を選定し、管理人が官報で相続人捜索の公告をすることになります。遺産の使い道を自らの意思で決めるためには、元気なうちに遺言書を作成しておくことが大切です。そうすれば、生前お世話になった人に贈与したりどこかの団体に寄付する等、遺産を有効に活かすことができます。

法定相続人がいない人が増えている

最近は生涯未婚の人が増えています。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、生涯未婚率(50歳で一度も結婚したことのない人の割合)は2010年の時点で男性が20.1%、女性が10.6%となっていました。しかし、2035年には男性が29%、女性が19.2%になるとも言われています。

財産を相続する人がいないとどうなる?

男性の3人に1人、女性の5人に1人が生涯未婚者となると、彼らが亡くなったときに財産を継ぐ人がおらず、遺産が宙に浮いてしまうケースが今後続出してくると考えられます。では、自分の財産を継いでくれる身内が誰もいないとき、遺産はどうなるのでしょうか。

法定相続人とは

法定相続人とは、民法で定められている遺産を相続すべきと考えられている人のことです。具体的には、故人(被相続人)の配偶者・子ども・孫・親・祖父母・兄弟姉妹(死亡している場合は甥・姪)を指します。

相続人がいないときは「相続財産管理人」が選定される

相続人が誰もいないときは、「相続人不存在」の状態になります。これは相続人全員が相続放棄をしたり、相続人が相続欠格・推定相続人の排除により相続資格を失っている場合も含みます。法定相続人になりうる人物が誰もいないときに、家庭裁判所から選任されるのが「相続財産管理人」です。これは故人の相続財産を管理する者のことで、通常は地域の弁護士が担当します。

相続人や相続債権者が現れなければ、最終的には国庫に帰属

相続人不存在の状態が確認されると、遺された財産は民法上法人となり、「相続財産管理人」が選定されます。この相続財産管理人が相続人や相続債権者を捜索しますが、一定期間それらが現れなければ、相続人のいない財産は最終的に国庫に帰属することとなります。

相続人が不明な場合にはどうする?

相続人や相続債権者を捜索するときの流れを見てみよう

相続人がいるかいないかが明らかでないときは、被相続人の利害関係者や検察官からの申立てにより家庭裁判所が相続財産管理人を選定します。相続人や相続債権者を捜索するときには、計3回官報で公告します。

1回目:相続財産管理人選任の公告

被相続人が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所は、利害関係人や検察官の請求を受けて、故人の遺産の管理や清算を行う相続財産管理人を選任します。家庭裁判所は、その旨を官報で2ヶ月間公告し、もし相続人がいれば申し出るよう求めます。

2回目:債権者・受遺者に対する債権申し出の公告

相続財産管理人選任の公告をして2ヶ月間相続人が見つからなければ、相続財産管理人は、故人に貸付を行っていた債権者や故人から財産を受け取る予定があった人(受遺者)がいたら申し出るよう、2ヶ月以上の期間を定めて公告します。債権者や受遺者からの申し出があれば、公告期間終了後まとめて清算手続きをすることになります。債権者がわかっている場合は、個別に債権申し出の催告をします。

3回目:相続人捜索の公告

2回目の公告期間が終わっても相続人が見つからない場合、相続財産管理人や検察官の請求により、更に6ヶ月以上の期間を定めて相続人捜索の公告を行います。この公告期間を経過してもなお相続人が現れなければ、「相続人の不存在」が確定です。

なお、この確定後に故人が生前深く関わりのあった特別縁故者が現れた場合は、相続人不存在の確定後3ヶ月以内であれば遺産を分与することができます。それでも残余財産がある場合は、国庫に帰属することになります。

いざというときのために遺言を残しておこう

2012年に経済産業省が30代以上の一般消費者4,148名にアンケートを実施したところ、遺言書をすでに作成したという人の割合はわずか1.7%でした。さらに、過去5年以内に家族からの相続を経験したの中で、遺言書がなかったという人の割合は8割近くにのぼっています。

こんな人は遺言を書いておこう

身内のいない人については、遺言書がなければ遺された周りの人たちは遺産をどうしたらよいのかわかりません。ましてや、「独居老人」が増えている昨今、遺言書を記して死後の財産の行き先をあらかじめ決めておくことはますます重要になりつつあります。

事業を経営している場合

経営者の場合、自分の死後も後継者に事業をスムーズに引き継いでもらうため、事業用資産(農地、工場など)を後継者に相続させる必要があります。遺言書を書くことによって、事業用資産とその他の資産を誰にどのように相続させるかを決めることができます。事業に貢献した者には、寄与分を考慮して相続割合を多めにすることも必要になるでしょう。

また事業用負債についても、後継者に負担させたいとする遺言書を作成することも可能です。

介護人などお世話になっている人がいる場合

たとえ何年お世話になっていても、身内でなければ介護や身の回りのお世話をしてくれた人に相続権はありません。きちんと遺言書を書いておくことで、お世話になった介護人や世話人にも感謝の気持ちとして現金や有価証券などの資産を遺贈することができます。

相続人がまったくいない場合

相続人も特別縁故者もいなければ、遺産は最終的に国のものになってしまいます。遺言書を書くことによって、身内ではなくてもお世話になった人や、財産を贈与したい人に遺産を遺すことができます。また、地方公共団体や福祉・環境問題などに取り組んでいるNPO法人に遺産を寄付することも可能です。寄付をする場合は、現金や更地の土地がよいでしょう。

遺言の種類はどんなものがある?

遺言書には以下の3つの方法がありますが、それぞれ民法の規定に従って書くことが必要です。書き終えたら、一度弁護士や行政書士などの専門家にチェックしてもらいましょう。また、遺言書を作成したらその旨を遺言の執行予定者に伝えたりエンディングノートに記載するなど、遺言の存在を知らせておくことが非常に重要です。

自筆証書遺言とは?

自筆証書遺言とは、文字通り自分の手で書く遺言書のことを言います。紙とペンさえあればいつでもどこでも書くことができますが、遺言書として認められるためにはいくつか要件があります。

  • 全文を手書きする(ワープロやパソコンで作成したものは×)
  • 日付を入れる(平成◯年□月△日まで正確に書く。「吉日」や月日だけのものは×)
  • 印鑑を押す(できれば実印がよいが、認め印でもよい)
  • 書き間違えたときは、民報の規定に従って訂正する(訂正印での訂正は認められない)
  • 相続開始時には、遺言書の発見者が家庭裁判所の検認を受けなければならない

このように、自筆証書遺言には厳格なルールがあります。ルールに従った書き方でないと、遺言書として認められません。書き間違えたときは面倒でも最初から書き直したほうが賢明でしょう。

公正証書遺言とは?

公正証書遺言とは、遺言者が公証役場に出向いて公証人に遺言内容を口述し、それをもとに公証人が作成する遺言書のことです。体力の低下や病気などで遺言書を自筆することが難しくなったときでも、公証人に依頼をすれば確実に遺言書を記すことができます。また、家庭裁判所の検認は必要ないので、相続開始時には迅速に遺言内容を執行することが可能です。遺言書の原本は公証役場で保管されるので、紛失や改ざんのリスクも避けられます。遺産の多寡により手数料はかかりますが、確実に遺言を残したい人にはおすすめです。

秘密証書遺言とは

秘密証書遺言とは、遺言者が自筆やパソコンで作成した遺言書を公証役場に持ち込み、公証人の確認・署名・押印を受けて作成するものです。遺言書が本人のものであることを確実に証明でき、遺言の内容を誰にも知られずに作成できますが、公証人が内容を確認できないため、内容に不備があると無効になる可能性もあります。また、相続開始時には自筆証書遺言と同様に、この遺言書の発見者が家庭裁判所の検認を受けることが必要です。

一生懸命に築き上げてきた財産も、それを相続できる身内がおらず国庫に帰属するしかないとなれば、非常にもったいないことになります。人はいつ亡くなるかわかりません。まだ元気なうちに弁護士や行政書士などの専門家に相談して、遺産の贈与先を決めておくようにしましょう。

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