遺産相続にまつわる8つの時効~時効が過ぎた場合に取るべき対応は?

遺産相続8つの時効

被相続人が亡くなると遺産相続が発生しますが、遺産相続の手続きの中には、時効や期限が設定されているものもあります。

時効や期限を過ぎてしまうと、本来得られるはずの財産を得られなくなるなど、不利益やペナルティーを被る場合があるので注意が必要です。

そこで今回は、遺産相続にまつわる8つの時効について解説します。

遺産相続で時効のある手続き

遺産相続において時効がある手続きとして、以下のものがあります。

  • 相続放棄の時効
  • 相続税申告の時効
  • 預金債権の時効
  • 遺留分侵害額請求権の時効
  • 相続回復請求権の時効
  • 生前贈与に対する贈与税申告の時効
  • 債務の消滅時効
  • 共同相続人による遺産の取得時効

以下、それぞれの手続きにおける時効の詳細を解説します。

相続放棄の時効

相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとして法的に扱われるので、遺産を相続せずにすみます。

相続放棄の時効とは、厳密には熟慮期間という制度です。

熟慮期間が過ぎると相続放棄ができなくなることから、一般に相続放棄の時効と呼ばれるのです。

被相続人が亡くなって相続が発生すると、相続人は単純承認・相続放棄・限定承認のいずれかを選択しなければなりません。

しかし、遺産を相続するかどうかを決めるにはある程度の考える時間が必要なので、熟慮期間の制度が設けられたのです。

相続放棄の時効(熟慮期間)は相続開始から3ヶ月

熟慮期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月です(民法915条)。

熟慮期間を過ぎても相続放棄や限定承認をしない場合は、単純承認(遺産を普通に相続すること)をしたものと見なされるので、原則として相続放棄はできなくなります。

熟慮期間の起算点はいつか

熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、

  • 被相続人が亡くなって相続が開始したこと
  • 自分が相続人であること

の両方を知った時とされています。

被相続人が亡くなったことを知るのは、一般に被相続人が亡くなった日ですが、日頃から疎遠だったために亡くなったことを後で知った場合は、熟慮期間の起算点が遅くなります。

一般的なケースであれば、被相続人が亡くなったことを知れば、自分が相続人になることも把握しているので、被相続人が亡くなったことを知った時から3ヶ月が熟慮期間の期限になります。

しかし、例外的なケースとして、被相続人に遺産が全くないと誤解しており、そう信じたことについて正当な理由がある場合には、単に被相続人が亡くなったことを知っただけでは、熟慮期間の起算点にあたらないとされています。

相続税申告の時効

相続税申告の時効とは、厳密には相続税の申告期限のことです。

被相続人の遺産を相続した場合、相続税の課税対象になります。

相続税には基礎控除があるので、遺産を相続しても必ず相続税が課されるわけではありませんが、遺産が高額な場合などは、相続税が課税される可能性が高くなります。

相続税が課税される場合は、申告期限までに相続税の申告をしなければなりません。

相続税の申告期限は相続が発生した「翌日」から10ヶ月以内

相続税の申告期限は、相続が発生した日(被相続人が亡くなった日の)の「翌日」から10ヶ月以内です。

被相続人が亡くなった日ではなく、その翌日が起算点となることに注意しましょう。

時効を待つと延滞税など大きなペナルティに

期限までに相続税の申告をしなかった場合、無申告加算税や延滞税などのペナルティの対象になり、期限までに申告した場合よりも多くの税金が課されてしまいます。

無申告加算税とは、期限までに申告をしなかった場合に課されるペナルティです。

申告期限から2週間が経過すると税務調査の対象になりますが、税務調査を受けてから申告すると、本来の税額の15%(50万円を超える部分は20%)が無申告加算税として課されます。

税務調査を受ける前に自ら申告した場合でも、本来の税額の5%が無申告加算税として課されてしまいます。

延滞税とは、納付期限までに相続税を納付しなかった場合に課される税金です。

延滞が2ヶ月以内の場合は2.9%、それ以降は年9.2%の割合で延滞税が課されます。

無申告加算税や延滞税が課されると税負担が重くなるので、相続税は必ず期限までに申告しましょう。

預金債権の時効

消滅時効とは、ある権利が一定期間行使されない場合に時効を援用することで、その権利を消滅させる制度です。

預金債権の消滅時効は、預金債権の種類(普通預金・定期預金・当座預金)によって起算点が異なります。

普通預金の消滅時効は最後の預け入れ・払い戻しから5年

普通預金の消滅時効は、預金者が最後の預け入れまたは払い戻しを行ったときが起算点となり、そこから5年が経過した場合は時効にかかります。

定期預金の消滅時効は満期日から5年

定期預金は満期が到来すると払い戻しが可能になりますが、これは預金払戻請求権という権利に基づくものです。

預金払戻請求権の消滅時効は、定期預金の満期日が起算点となり、そこから5年が経過すると時効にかかります。

自動継続の特約が付いている場合は、それ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が起算点になるとされています。

当座預金の消滅時効は契約終了から5年

当座預金は、預金者と金融機関が当座勘定契約を締結し、その契約に基づいて手形や小切手の振り出しを行うものです。

当座預金の消滅時効は、当座勘定契約が終了したときを起算点として、5年が経過すると時効にかかるとされています。

期限を過ぎていても、銀行が預金債権の時効を援用するのは稀

なお、実務においては、銀行をはじめとする金融機関が預金債権の時効を援用することはあまりありません。

時効期間が経過していて時効を援用できる場合であっても、預金通帳などから預金債権の存在が確認できれば、払い戻しに応じるのが一般的です。

遺留分侵害額請求権の時効

一定の法定相続人について権利として認められている、遺産の最低限の取り分を遺留分といいます。

遺留分を侵害された者は、遺留分を侵害した相手に対して、遺留分に相当する金銭を支払うように請求でき、これを遺留分侵害額請求権といいます。

遺留分侵害額請求権の時効は、①被相続人が亡くなって相続が開始したことと、②遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ってから1年です。

相続の開始、遺留分の侵害 両方を知った時点が起算点に

時効が開始する時点のことを、時点の起算点といいますが、遺留分侵害額請求の時効の起算点は、上記の①と②の両方を知った時点から始まります。

もし①を知ったとしても、②について知らなかった場合は、時効のカウントは始まりません。

なお、時効の期間が経過したとしても、それだけで遺留分侵害額請求が一切できなくなるわけではありません。

時効の効果を発生させるには、請求された側が時効を援用するという意思表示をする必要があります。

もし請求された側が時効の援用をしない場合は、時効の期間が経過した場合でも、なお請求をすることができるのです。

遺留分侵害額請求権の除斥期間

遺留分侵害額請求権には、時効だけでなく除斥期間もあります。

時効と除斥期間の違いは、時効は当事者が援用しなければ効果が生じないのに対して、除斥期間は当事者が援用しなくても効果が生じることです。

遺留分侵害額請求権の除斥期間は、相続が開始してから10年です。

相続が開始したことを知ってからではなく、相続が開始してから10年なので、被相続人が亡くなって10年が経過すると、遺留分侵害額請求権は消滅します。

相続回復請求権の時効

相続回復請求権とは、表見相続人(相続人のように見えるが実際は相続人ではない人)が相続財産を占有している場合に、真の相続人が請求権を行使することで、相続人としての権利を回復できる制度です。

相続回復請求権の時効は、「相続権を侵害されたことを知ったとき」から5年間です。

相続権を侵害されたことを知ったときとは、以下の3つの全てを知ったときとされます。

  1. 相続が開始したこと
  2. 自分が相続人であること
  3. 自分が相続から除外されていること

時効の起算点は①〜③の全てを知ったときなので、相続を開始したことを知っていたとしても、自分が相続人であることを知らなかった場合は、時効のカウントは始まりません。

被相続人が亡くなって相続が開始してから20年が経過した場合も、相続回復請求権の時効にかかります。

相続が開始したことを知らなかったとしても、相続開始から20年が経過すれば時効になるのです。

相続回復請求権の時効は援用をできる人が限定される

時効の効果を生じさせるには時効の援用が必要ですが、相続回復請求権の時効を援用できる人は限定されています。

相続回復請求権の時効を援用できるのは、表見相続人が善意かつ無過失の場合に限られます。

表見相続人が善意でない場合や過失がある場合は、時効の期間が経過していたとしても、時効を援用することはできません。

生前贈与に対する贈与税申告の時効

生前贈与に対する贈与税申告の時効とは、厳密には、生前贈与で贈与税の申告が必要になった場合の申告期限のことです。

生前贈与とは、自分が生きている間に、他人に自分の財産を無償で譲る契約のことです。

生前贈与によってある程度の金額の贈与を受けた場合や、贈与税に関する特例の適用を受ける場合などは、贈与税の申告が必要になります。

贈与税の申告期間は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。

よって、贈与税の課税対象となる贈与を受けた場合は、贈与を受けた翌年の3月15日を期限として申告をしなければなりません。

申告期限を過ぎると延滞税などのペナルティの対象に

期限までに贈与税の申告をしなかった場合、無申告加算税や延滞税などのペナルティの対象になります。

無申告加算税は期限までに申告をしなかった場合に課されるペナルティで、本来課される税金の最大20%が加算されます。

延滞税は納税を遅延したことに対して課されるペナルティで、本来の税金に対して利息のように加算されるのが特徴です。

債務の消滅時効

借金などの債務を相続した場合、消滅時効を援用することができます。

債務の消滅時効とは、債権者が長い間債権を行使しない場合に消滅時効を援用することで、債務の支払いを免れる制度です。

債務の消滅時効が到来するのは、最後の返済(最後の支払期日)から5年もしくは10年が経過している場合です。

金融機関・信販会社・消費者金融などからの借金の場合は5年で、個人からの借金の場合は10年になります。

マイナス財産を相続した場合でも、時効の援用により債務の支払い義務を免れることができるケースもあります。

消滅時効の援用が可能かどうかは、相続前の債務の返済状況によるので、弁護士に相談して確認するのが良いでしょう。

共同相続人による遺産の取得時効

共同相続人が共有している不動産について、共同相続人の1人が取得時効を主張することで、単独の所有権を取得できるかという問題があります。

取得時効の概要

取得時効とは、他人の財産を長期間占有した場合に、その財産の所有権を取得できるとする制度です。

長期間の占有を続けたという事実状態を尊重して、それを法的な権利まで高めようというのが、取得時効が認められる主な理由です。

取得時効は以下の2つのルールがあり、いずれかを満たす場合に所有権を取得できます。

  1. 20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する
  2. 10年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に善意無過失であった場合は、その所有権を取得する。

たとえば、他人の物であると知っていた(悪意)としても、平穏かつ公然と不動産を20年占有し続けていた場合は、取得時効によって不動産の所有権を取得できるのです。

共同相続人による遺産の取得時効が認められるか

誰が相続するかを決めないまま、被相続人の遺産である不動産を複数の相続人が共同相続した場合、その不動産は共同相続人全員で共有している状態にあります。

たとえば、被相続人が亡くなって遺産として実家の土地建物がある場合に、相続人である妻・長男・次男の三人が共同相続するなどです。

共同相続した不動産について、共同相続人の1人が単独で長年占有を続けた場合に、取得時効を主張してその不動産を自分だけのものにできるかが問題になります。

たとえば、被相続人の遺産として不動産があり、法的には3人の共同相続人で共有しているところ、共同相続人の1人が長年単独で平穏かつ公然と占有していた(居住していた)ので、取得時効を主張して所有権を取得できるかです。

この点につき判例は、共同相続人は取得時効の要件である「所有の意思」を有しないのが通常なので、共同相続人が長年占有をしても、原則として取得時効は成立しないと判示しました。

共同相続人が所有の意思を有するといえるのは、他の共同相続人がいることを知らずに、自分が単独で相続したと誤信して占有を始めたなど、特別な事情が必要だとしています。

時効のない遺産相続手続き

遺産の相続手続きの中には、時効がないものもあるので解説します。

遺産分割請求権

遺産分割請求権とは、遺産分割協議をすることを請求する権利です。

被相続人が亡くなって相続が発生した場合、被相続人の遺産はいったん相続人全員の共有になります。

共有状態の遺産について相続人全員で話し合いをして、誰がどの遺産を相続するかを協議する手続きを、遺産分割協議といいます。

相続人の1人が他の相続人に対して、遺産分割協議をすることを請求する権利を、遺産分割請求権といいます。

遺産分割をしない限り遺産の共有状態は続くことから、遺産分割請求権には時効はありません。

相続登記

相続登記とは、相続によって不動産を取得した場合に、登記の名義を新しい所有者に変更する手続きです。

たとえば、被相続人名義の不動産を長男が相続した場合に、不動産の名義を被相続人から長男に変更するなどです。

2024年より3年以内の申請が義務に

相続登記には時効はありませんが、一定の期限までに相続登記をすることを義務化する法令がすでに公布されており、2024年を目処に施行される予定です。

施行予定の相続登記の期限は、自分のために相続の開始があったことを知り、かつ、登記の対象となる不動産などの所有権を取得したことを知った日から、3年以内です。

相続登記の義務化が施行された場合は、上記の期限までに相続登記を済ませる必要があります。

相続手続きの時効が過ぎていた場合

相続の手続きについては複数の時効や期限があるため、時効が過ぎてしまった場合に取るべき対応は、ケースバイケースで異なってきます。

時効が過ぎてしまうと、受け取れるはずの財産を受け取れなくなったり、ペナルティーとしてより多くの税金を収めなければならなかったりなど、様々な不都合が発生することがあります。

時効が過ぎてしまったことに気づいた時点で、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。

まとめ

遺産相続における時効や期限は8つあり、相続放棄の熟慮期間の期限、相続税の申告期限、遺留分侵害額請求権の時効などがあります。

時効を過ぎてしまうと、本来受け取れるはずであった遺産や金銭を受け取れなくなったり、本来よりも重い税金を課されたりなど、様々な不都合が発生する可能性があります。

時効を過ぎてしまったことに気づいた場合は、不利益を最小限にするために、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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