生命保険も相続の対象?生命保険(死亡保険金)の評価方法

生命保険の死亡保険金は相続の対象?

札

生命保険の死亡保険金は相続税法における課税相続額の対象となります。厳密には死後に得られるため相続財産とは異なりますが、相続人が被相続人の死亡後に受け取る点は一緒です。このような財産を「みなし相続財産」と呼びます。

もし、みなし相続財産を認めないと「相続人が受け取る死亡保険金=相続人が持っていた財産」と計算されて大きな課税逃れを許すことになります。

みなし相続財産をもっと詳しく知ろう

みなし相続財産とは被相続人(亡くなった人)が死後に得る財産。または被相続人の死を条件に取得する財産のことを言います。相続でも遺贈でもありませんが、同様の経済効果を持つことからそう呼ばれています。

「みなし」相続である以上相続税の課税対象にはなっても民法上は相続として扱われません。

みなし相続財産の代表的な例として死亡保険金と死亡退職金があります。(ちなみに、死亡退職金は実質性が問われるため見舞金や弔慰金なども課税対象になる場合があります。)

みなし相続財産だから不当に奪われない

遺産分割で合意できずに相続争いになる例はよくありますね。死亡保険金だってせっかく遺族の名義を設定したのに分割の対象になっては元も子もありません。しかし、みなし相続財産は民法上の相続財産でないことから遺産分割の対象になりません。

なお、正当な理由がある場合はみなし相続財産を理由に本来の相続分が減ります。

生命保険を受け取る人は通常通り遺産をもらえるのか

ただ、死亡保険金をもらえない他の遺族にとっては生命保険をそのままもらえて、さらに残りの遺産を法定相続分で引き継げるとなればいささか不公平に思えますね。
そこで、考えられるのは特別受益として生命保険を扱うことです。特別受益とは民法第903条によって定められた概念で、一言で説明すると被相続人から受け取った遺贈や贈与です。

例えば3人兄弟の父親が亡くなり、相続財産が2600万円あったとします。
このとき、3兄弟は子の受け取れる法定相続分は等しいのですが、次男だけが生計費として100万円を受け取っていたとします。
その場合、次男が受け取った100万円は相続財産の計算に含まれます。
2700万円を3人で分割、次男はうち100万円が相続分に含まれるので

2700万円 ÷ 3人 = 900万(次男は 800万円+生計費 100万円)

つまり、実際の相続財産は長男と三男が900万円、次男が800万円相続できることとなります。

生命保険も特別受益として処理できれば遺族間の不公平は減らせるでしょう。
しかし、生命保険はみなし相続財産。そもそも贈与でもなければ遺贈でもありません。よって、特別受益の対象とならないのです。

このように民法において法律で定められていないが実質的に既存の法律で処理すべきような事例では法律の「類推解釈」が行われます。
死亡保険金の場合は以下のような場合に特別受益に含まれる可能性があります。ただし、例外的処理であることは忘れないでください。

  • 法定相続分と比べて著しく高額の死亡保険を得る場合
  • 被相続者とのかかわり方から「生命保険+法定相続分の遺産をもらうのが不公平」という場合(介護に参加しなかった、被相続人に多大な迷惑をかけたなど)

生命保険は相続税の節約に利用できる

非課税金額は法定相続人の数で決まる

生命保険は相続税の節税を目的に利用されていること、ご存知ですか?

相続税の計算をするときは遺産総額から3000万円+法定相続人の数×600万円という基礎控除が適用されます。
生命保険が相続財産となる場合は合計する前に最大で法定相続人の数×500万円までを非課税額とできます。

つまり、生命保険を相続財産とした方が現金として残すよりも控除の割合が大きくなるわけです。

相続税の課税評価額を計算してみよう

では、実際に死亡保険金の課税評価額を計算してみましょう。

具体的な計算方法は以下の通りです。

その相続人が受け取る生命保険金額-{500万円×法定相続人の数)×(相続人が受け取った生命保険金額÷すべての相続人が受け取る生命保険金の合計)}=その相続人に課税される生命保険の金額(課税対象額)

例えばこのようなケースではどうなるでしょうか。

相続税 課税評価額の計算例

夫の死亡保険金が3000万円、法定相続人が妻、子ども2人で、3人とも相続放棄していないと仮定します。

法定相続分に則れば

  • 妻が受け取る死亡保険金:1500万円
  • 子ども1人750万円

となりますね。

したがって、妻が受け取る保険金の評価額は

1500万円-{(500万円×3)×(1500万円÷3000万円)}=750万円

子どもが受け取る保険金の評価額は

750万円-{(500万円×3)×(750万円÷3000万円)}=375万円

となります。

相続放棄や相続人以外への遺贈があった場合は?

生命保険の受取人が必ずしも相続人や被相続人本人となるわけではありません。場合によっては内縁関係にあるものや他人になっている場合もありますし、相続人のだれかが相続放棄をすることもあります。このような場合はどう計算されるのでしょうか?

法定相続人でない人は非課税枠もない

当然のことながら法定相続人でない人は非課税枠が設けられていません。よって、法定相続人の地位にない人や法定相続人だったけれど相続放棄をした人は、非課税の対象となりません。
課税評価額を計算するときは相続放棄をした人も、法定相続人とみなして扱います。つまり、相続放棄者の出現によって非課税の割合は変わりません。

生命保険については遺留分を確保できるのか

相続財産が遺贈によって不公平が生じた場合や全くの他人にまるまる相続財産を継がせる旨の遺言が見つかった場合、法定相続人は最低限の財産を確保するために遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)ができます。
ただ、生命保険が特別受益の対象にならない理由が相続財産でないことだったので、遺留分の対象にも含まれません。よって、遺留分侵害額請求が通るのは例外的と言えます。

生命保険にかかる税金は契約形態で変わる

以上、生命保険と相続税についての概要を紹介しました。

ここで、改めて確認しておきたいのですが生命保険は「契約者から受取人に送られる」ものであることをご存知でしょうか?
つまり、被保険者が亡くなった場合であっても死亡保険の扱いは契約者と受取人によって異なります。こちらでは相続財産として扱われないケースを紹介します。

契約者と受取人が存命なら贈与

まず、契約者と受取人が存命で被保険者が亡くなった場合は「契約者から受取人への贈与」とみなされます。よって相続財産には計算されず税金も贈与税が支払われます。贈与税の計算は通常の贈与と同じく以下のようになります。

{保険金-110万円(基礎控除額)×(贈与税の税率)}-控除額=課税対象

契約者と受取人が同一人物なら所得

つぎに、契約者と受取人を同一人物としていた場合は契約者の支払った保険を契約者自らが受け取ったので所得として扱われます。

(A)死亡保険金を一時金で受け取る場合と(B)年金で受け取る場合は計算方法が異なります。

(A)死亡保険金を一時金で受け取る場合は「一時所得」となり、計算は次のようになります。
※死亡保険金以外に一時所得がないものとします。

(受け取った死亡保険金-払い込んだ保険料-一時所得の特別控除50万円)×1/2=課税対象

(B)死亡保険金を年金で受け取る場合「雑所得」となります。
雑所得は給与所得などと合計して所得税を計算します。

契約者≠被保険者かつ契約者が亡くなった場合

場合によっては被保険者よりも先に契約者、つまり保険料を負担している人が亡くなる場合もあります。この場合は当然、死亡保険金が払われません。
しかし、契約者が亡くなった以上生命保険は解約となり解約返戻金が受取人に渡されます。

ということは、この解約返戻金は契約者から受取人への相続財産とみなされます。(つまりみなし相続財産のひとつ)
この場合は通常の相続財産と同じように計算されます。

生命保険を相続対策に利用するメリット

相続対策に生命保険を利用するメリットはこれだけあります。決して節税対策だけではないので、検討している方はご覧ください。ちなみに、保険で得をしたいなら「起こりうる事故のリスクや家系による病気のリスク」に基づいて加入を判断しましょう。

  • 相続税を減らせる
  • 利息が高い
  • 口座から引き出す手間がない
  • 被相続人の思いを反映した遺産分割に近づく

相続税を減らせる

まず、相続税を減らせることが生命保険のメリットとなります。非課税額を別に計算できるうえに相続放棄をした人も法定相続人の人数に含んでよい点が特徴的ですね。
ただ、相続放棄をした人が死亡保険金を受け取る場合に非課税の処理がされない点も注意が必要です。

あくまで生命保険の相続として処理するなら終身保険を

死亡までに保険事故が起きなかった場合でも終身保険であれば死亡とともに保険金を受け取ることができます。

生命保険はみなし相続財産となるのですが、存命のうちに解約返戻金を受け取った場合はただの現金になってしまいます。
つまり、基礎控除の対象にしかなりません。勘違いしがちなポイントですから気をつけましょう。

利息が高い

生命保険を利用するのは保険事故のためだけではありません。保険を運用した利益が利息として還元されるからです。
その利率は銀行に比べてずっと高いので定期預金代わりに保険を利用する方も多くいます。

利息の高さや死亡保険金・解約返戻金の額を考えたとき、残念ながら掛け捨て型保険は選択肢から外れます。
とりあえず生命保険と考えている人は積み立て型を選びましょう。

口座から引き出す手間がない

被相続人の財産が銀行にある場合、それを引き出すための手間がかかります。口座凍結がされているため暗証番号と通帳を持っているだけでは引き出せず、凍結解除のためには被相続人と相続人の戸籍謄本が必要となります。

一方、生命保険であれば被保険者が亡くなってすぐに死亡保険金を受け取ることができるため手続きが非常に簡単です。ただし、保険金の算定について時間がかかる場合もあります。

被相続人の思いを反映した遺産分割に近づく

生命保険は相続財産に含まれません。この性質を利用して特定の人にお金を渡す手段とすることができます。原則としては特別受益や遺留分侵害額請求の対象として扱われないのでほぼ全額を受け取れます。

一方遺言書で定めた場合は特別受益の対象となることや、遺留分侵害額請求によって相続させたいお金を分配せざるを得ないことが考えられます。「格別に財産を引き継がせたい人がいる」という場合は生命保険を利用しましょう。

相続対策では生命保険(死亡保険金)もきちんと試算を

満足行く相続対策には弁護士に相談を

生命保険の制度はうまく使えばメリットが多いものの、複雑であるため生命保険が本当に相続対策になるかどうか、はっきり言ってケースバイケースです。
満足のいく相続対策を行ううえでは専門家の目が必要です。税のことだけなら税理士でも十分ですが相続によって起こる法律トラブルを丸ごと解決するなら相続案件に強い弁護士が心強いです。
死亡保険金の額に納得がいかないときでも、弁護士であれば保険会社との交渉を円滑に行うことができます。
相続対策に万全を期すならば、弁護士に相談することをおすすめします。

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